円安は失われた30年を取り戻すトリガーに?円安と今晩のFOMC見通しについて解説します。

日本国内では、引き続き円安についての議論が盛んに行われております。果たして円安は、悪なのか、正義なのか様々な観点から解説していきたいと思います。
NEKO TIMES 2022.11.02
誰でも

こんにちは、NEKO ADVISORIESの中沢です。本日のニュースレターでは日本、米国のマーケット展望ともに「円安は失われた30年を取り戻すトリガーに?円安と今晩のFOMC見通しについて解説します。」について解説していきたいと思います。

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以下、

◇為替介入と円安はセットに論ずるものではない

◇自国通貨安は失われた30年を脱却するチャンスではないだろうか

◇徐々に数字に出始めた円安恩恵

◇消費者が値上げを許容できるかが鍵

◇企業の国内回帰は進むか

◇今晩のFOMC予測

を記述した内容となっております。無料記事になりますので猫組長TIMESをご登録の上、お読み下さい。

先週は日本の金融政策や利上げについて、客観的かつ、中立的な立場で解説をさせていただきました。その背景としては昨今、テレビ等の報道において円安を悪だとする論調を多く目にするからです。もちろん様々な意見があると思います。しかし、果たしてメディアが報道するように円安は本当に悪なのでしょうか?私は円安が悪だと思いませんし、むしろ失われた30年と言われる期間から抜け出す最大のチャンスを迎えていると考えます。その辺りを追加解説していきたいと思います。

◇為替介入と円安はセットに論ずるものではない

こちらは私のツイッターでも取り上げましたので、そちらを見て頂いた方は重複した内容で申し訳ございません。

上記ように「日銀の金融政策が円安をもたらしているにもかかわらず、政府がその円安を是正するために為替介入で円高誘導しては、日本全体として政策の矛盾が生じている」、「円安が輸入コスト増加の原因であり、家計支出を圧迫していることからも円安は悪だ」と言う論じ方がされているように感じます。しかし、そもそもなぜ為替介入をしているのかを理解していないのではないでしょうか。政府が為替介入をしているのは「急激な円安」を是正したいのであって「円安」を悪とし止めたい訳ではありません。急激な円安は先行きの不確実性を高め、企業による事業計画策定を困難にするなど経済にとってマイナスとなってしまうことから、投機的な動きがもたらす「急激な円安」を抑え、本来あるべき為替の動きである金利差や、経済環境、景気等のファンダメンタル要因にて緩やかに推移させるために行っているものです。円安・円高どちらがいいのかについては様々な意見が存在し、私個人的な考えは後述しておりますが、円高・円安以前に為替介入と、日銀の金融政策は並列で論じるものではないことをお伝えしたく、取り上げさせて頂きました。

◇自国通貨安は失われた30年を脱却するチャンスではないだろうか

自国通貨安は輸出企業に恩恵を与え、輸入企業にデメリットとなりますが、自国通貨安は競争力を高め、結果的には輸出依存度に関わらずGDPの上昇に寄与している歴史があります。下記の画像をご覧ください。世界的には、生活費の危機や、大半の地域で見られる金融環境の引き締まり、ロシアのウクライナ侵攻、長引く新型コロナウイルスのパンデミックがすべて、経済見通しに重くのしかかり、世界経済の成長率は、2021年の6.0%から2022年には3.2%へ、2023年は2.7%へ鈍化する見込みです。この数値は世界金融危機と新型コロナのパンデミックが深刻だった一時期を除いて、2001年以降で最も弱い成長の推移です。それに対して、日本の成長率は元来低かったこともありますが、他の先進国につられる事なく、2023年は先進国の平均値を上回る成長率を見込んでおります。これは、金融緩和政策、ひいてはそれがもたらす円安によるGDP増によるものです。30年もの期間、停滞してしまった経済を向上させたい日本にとっては自国通貨安はむしろ喜ぶべきものであると考えます。特に為替を主題にするのであれば、失われた30年間は景気が拡大していないのもかかわらず、円高進行と言う負の経済サイクルが発生してしまっておりました。メディアは円高も円安も悪く言うのでしょうが、30年間の不況期に生じていた緩やかな円高トレンドが円安トレンドに転換しているのですから、不況期と逆行した動きは国内景気の下支えになると考えてもいいのではないでしょうか。

引用先:IMF

引用先:IMF

◇徐々に数字に出始めた円安恩恵

IMFの成長率予測でも取り上げたように、各企業の決算数字にも2023年以降の業績拡大が徐々に数値として現れてきました。これらを見ても円安による企業業績拡大が日本全体としての成長率に寄与していることがお分かりいただけるのではないでしょうか。そして日本企業である以上、決算時には「円」で数値を開示します。これまで為替の影響を少しでも軽微にするために多くの企業が海外へ生産拠点を移した訳ですが、そういった企業なら尚更、海外通貨高、緩やかな円安の恩恵を受けることができるのではないでしょうか。各指標が示す通り、特に来年以降になれば日本経済にとって円安が悪いものではなかったと理解する人々も増えてくると思います。

また、アベノミクス政策を批判する方々は財政の件と合わせて政策開始以降、景気は拡大していないじゃないかと論じております。政策についての賛否両論はあるものの、米国の10年債利回りを見てもわかるように、中長期的に金利下落する状況下で円安トレンドになりづらく、近隣窮乏化の恩恵を受けられなかったことも景気拡大の進まなかった大きな要因の1つだったと思います。しかし、奇しくも未曾有のコロナウイルスや、ロシア・ウクライナ紛争、エネルギー問題、世界各国の巨大な財政出動等が引き金となり、高インフレの発生。それらが約40年間続いた金利低下、債券上昇トレンドを反転させました。それに対し、日本はまだ物価上昇は目標値に届いておらず、過度なインフレも見られません。様々な出来事が複合して円安をもたらした訳ですが、インフレの状況を見る限り米国の金融政策の転換はまだ先であり、緩やかな円安が日本の経済を強く刺激していく期待感が生まれてきたと考えます。

◇消費者が値上げを許容できるかが鍵

先週のアップルの決算にて顕著に現れたように、自社製品を経済状況に合わせて値上げ、価格転嫁できるかどうかが企業の売り上げ、利益に大きく左右します。先週も記述したように日本では長らく続いたデフレ環境により、値上げを許容しない雰囲気が存在します。後述しますが、その結果として物価上昇している分のほとんどを企業が吸収しております。そのような状況下では、企業は賃上げに踏み切ることはできないでしょう。緩やかなインフレと賃金上昇がもたらす普通の経済を手にするためには、消費者の値上げ、インフレ許容は不可欠だと思います。

総務省が9月20日に公表した消費者物価指数によると、22年8月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、コアCPI)は前年比2.8%でした。一方、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)前年比1.6%(7月:同1.2%)と2%に近づいていきております。多くの人が目を通すのはここまでの指標かと思いますが、実は企業物価指数を見てみると9%もあるのです。つまり、物価上昇のコストのほとんどは企業が吸収しているのです。これが賃上げできない理由の1つだと思います。皆様も企業経営者の立場で考えれば、調達コストが増加しても価格に転嫁できないのであれば、経営方針も積極的でなく保守的になり、内部留保を多くし、値上げ以外のコスト減(人件費削減や設備投資減)など後ろ向きの経営にならざるを得なくなるのではないでしょうか。

また、ここまでは消費者など個人のデフレマインドの浸透を中心にしてきました。しかし、実は日本企業と言う法人についても同様のことが言えます。デフレマインドの個人が経営するのが法人ですから、法人も企業間同士の値上げを許容しなかったり、デフレ下であったことから必要以上に内部留保として溜め込み、設備投資の減少が進んでおりました。技術力では世界No. 1といっても過言でない日本が米国経済とこれだけ差をつけられてしまったのは、利益を溜め込む日本と、利益をどんどん設備投資に回す米国との差だったと思います。個人同様に、法人においてもインフレを許容できるか、インフレ下においての正しい経営戦略を構築できるかが鍵となることでしょう。

これまでお話ししたような経済的な正攻法を口にするのは簡単でも実現するにはとてつもない労力が必要不可欠です。高齢者比率の高い日本においては、政治的にも高齢者が求める政策に傾斜しがちです。バラマキ政策が票取りに直結するのも決して否定はできません。黒田日銀総裁が家計は値上げを許容していると発言し、発言の撤回を余儀なくされましたが、本音で言えば企業が本来の経済活動の1つである、時流に合わせた価格転換を消費者が許容してほしい、その先に賃上げがあるのだからと言うところではないでしょうか。

◇企業の国内回帰は進むか

為替の議論が進む中で、次点として議題に上がるのが日本企業の国内回帰です。確かに、円安が緩やかに進んでいくのであれば輸出企業を中心に海外の拠点を日本国内に移すことで、更なるメリットを享受できます。しかし、私は今から国内回帰するには「為替的側面では既に遅く、国内にも様々な問題を抱えることから国内回帰は進んでいくべきだが、中々進捗しないのではないか」と考えております。結果論ではありますが、アベノミクスを機に中長期的な円安は見込めた訳ですので、2012年以降を境に国内回帰が既に起きているべきだったと思います。(それらが起きなかった国内事情としては、少子高齢化による労働人口の減少に加えて、世界各国に対して電気代等のエネルギーコストが高かったことなどが挙げられるでしょう。)

また、海外への拠点移転や国内回帰は明日明後日に決められるものではなりません。数年以上の期間をかけてようやく実現されるものです。そういった観点から考えると、1年で40円近く円安が進んだ段階で、数年後に具現化される移設を行うことができるでしょうか。今から移設することは、株式で言えば高値掴みになりかねず、勇足になる経営者がほとんどだと思います。私は従来よりアベノミクスの出口戦略は国内回帰にあったと考えておりますが、それはアベノミクスの制作開始以後、国内回帰を促し、実現されるものであっていまから進むものではないように感じます。そういった観点から個人的には、国内回帰は進んで欲しいがなかなか進まないと考えております。とはいえ、この数十年で為替への対応を強く行っている日本企業ですので、国内回帰しないことが大きな負ではないでしょう。先述したように、国民や企業が円安を正しく理解し、インフレを許容できるようになることが重要だと思います。

◇今晩のFOMC予測

今晩の日本時間深夜3時に米国の連邦公開市場委員会、FOMCの結果が公表されます。発表前の利上げ予測は以下の通りです。11月は0.5%利上げ→16.3%0.75%→83.7%となっております。11月の0.75%利上げは既定路線であり、今回の焦点は12月の利上げ幅となります。10月半ばに出たFed Pivot観測により、従来既定路線であった12月の0.75%利上げが0.5%→48.1%,0.75%→44.2%と軟化したことを受け、株式市場は大きく上昇しました。予測通り0.5%利上げを発表すれば株式市場はややポジティブに反応することでしょう。しかし、0.75%利上げだった場合には、軟化期待で上昇していた分を打ち消すこととなり、大きな下落で反応することに注意が必要です。とはいえ、直近決算においてはGAFAMを除き、好調な企業業績が出ておりますので、一先ず下値は限定的だとは思います。

株式市場の参加者としては、金融政策が軟化し株式が上昇することを求めていることでしょう。しかし、目先の株式ではなく、大きなマクロ経済と言う観点で言えば、インフレ対策を最優先で行わなければなりません。インフレ対策を強く行えば、株式市場は下落し、景気後退を引き起こすことになりますが、逆にインフレ対策を十分に行わないことはむしろ後にさらに大きく長い景気後退を引き起こします。目先ではなく、先々のことを考えるのであれば、ここは経済を押し殺してでもインフレ抑制に図るべきです。ここまで大きな恩恵を受けてきたのですから、一時的な痛みは伴って然るべきだと考えます。しっかりと一時的な痛みを受けることで、次回の景気上昇への転換を促すことができるのです。過去の経験則が示す通り、インフレは想像以上に厄介です。これまで何度も申し上げておりますが、過去に学び、強い利上げを行うべき、そして行うものとしてポジションを取ることが大切であると思っております。

最後までお読みいただき、あリガとうございました。

***

編集後記

みなさんこんばんは、猫組長です。

アップデートされた郷ひろみと3時のヒロインが歌い踊り狂う「にしたんクリニック」の狂気じみたテレビCMを観て気分が萎える今日この頃です。検査すればするほど補助金で儲かるシステムに味をしめた「にしたんクリニック」が第8波を心待ちにしている様子が手に取るように分かりますね。

銀行の業界用語で「日本茶」は銀行強盗やクレーマーなど迷惑な輩を指す隠語だそうです。業界によって色々な業界用語・隠語が存在しますが、某大手引越し会社で特別な客を指すVIPという隠語を紹介します。

2000年初頭、私は六本木から目黒区の碑文谷という場所に引っ越しました。知人が所有していた分譲マンションの一室を借りたのです。通常、反社会的勢力は引越し業者に関わらず、あらゆる業者の選定はほぼ紹介です。トラブルが面倒なので”反社会的集団慣れ”した業者を互いに紹介し合う慣習みたいなものが存在しました。少々割高でも、素性を知っていて互いに利害が一致するので安心なわけです。

この時は、在京組織の知人から某大手引越し業者を紹介してもらいました。見積もりに来た担当者も慣れていて、「不都合なものはご自身で梱包、移動をお願いします」とかサラリと言ってのけるほどです。”不都合なもの”ってなんやねん!と思わず突っ込みたくなりましたが、紹介者の顔もありますので我慢です。引越し業者も過去の経験から”不都合なもの”で困惑した経験があるのでしょう。おそらく、拳銃とか日本刀、現金や金塊とかあったんでしょうね。

そんな物騒なモノなど一切縁がない私の引っ越しはとてもスムーズに進みました。新居に運び込まれる荷物にはVIPと書かれたシールが貼られていて、なんだか特別扱いみたいで嬉しくなりましたね。そう言えば見積書にもVIPとスタンプが押されていました。

碑文谷は閑静な住宅街で、住んでいる人も上品な人ばかりでした。引越してから1ヶ月も経たないある日、早朝からインターホンが鳴ったのでモニターを見ると、10人くらいのややこしそうな人たちが映っていました。すぐに警察と分かる姿です。ガサ(家宅捜索)ですね。

捜索差押許可状(ガサ状)の容疑は銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)となっていました。もちろん、自宅に拳銃なんか隠しているわけありません。ガサ入れに来た警視庁の捜査員もそんなことは分かっているので、形式的な捜索をして終了です。予定調和というやつですね。取り敢えず、管轄に暴力団が引っ越してきたから挨拶がわりのガサ来ました的な・・・

とりあえず銃刀法でガサ入れみたいなことは日常茶飯事です。なぜかと言うと捜索差押許可状が簡単に取れるからですね。裁判所が捜索差押許可状を発布する時には、ある程度の根拠・証拠が必要なので、取り敢えずの場合は銃刀法だとか電磁的公正証書原本不実記録(車庫飛ばし)、詐欺(携帯電話・不動産契約時の身分詐称)なんかで令状を取ります。

「どこそこの誰々が自宅に拳銃を隠し持っている」という匿名通報の根拠が多いです。所轄の警察署に誰かがタレ込むやつですね。これ、警察の自作自演です。公衆電話から警察署に電話して、一応は形式だけ整えて捜索差押許可状を請求するのです。

この時、某大手引越し業者のVIPとは暴力団関係者など要注意人物を指すものと捜査員から教えてもらいました。なぜ、引越してすぐにガサ入れが来たのか不思議だったのでその理由を聞いて見ると、同じマンションに要人が住んでいて警戒が厳重だったからと判明しました。

***

猫組長TIMES 次号は11月4日です。

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