飲食業界の冷たさと温もり-コロナ禍からの復活とデジタルの活用-

緊急事態宣言解除により飲食業界も復活の兆しを見せている。しかしながら消費者の価値観の変化や人手不足をはじめとする構造的な問題も山積みである。スタートアップや海外企業を紹介しながら新しい飲食業界の姿をイメージするきっかけになればと思う。
NEKO TIMES 2021.10.15
誰でも

みなさんこんにちは、猫組長です。

いつの間にか季節は秋になりましたね。私は秋から冬へ移りゆく時期が好きです。急に寒くなって「今日から冬」と感じる時になんだか嬉しくなります。これから厳しい冬が来るのだ、と身の引き締まる感覚が好きです。今日は岩倉氏に飲食業界の直近の動きを解説してもらいます。

***

こんにちは、NEKO PARTNERS岩倉です。毎週金曜のニュースレターではビジネスや経済のトレンドについて解説していきます。今週は緊急事態宣言解除による飲食業界について、人々の価値観の変化と合わせて新しいビジネスを紹介していきます。

<本日のトピック>

・飲食業界のいま

・やっぱり強い?「サブスク」

・飲食業界のデジタル化

記事の最後には猫組長による編集後記があります。今回も最後までぜひお読みください!

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緊急事態宣言が明けて街は賑わいを取り戻しつつある。前回はアフターコロナの「旅行業界」を取り上げ、国内外のビジネスの新しい動きを紹介した。今週はコロナ禍で大きな打撃を受けた「飲食業界」に注目して、筆を進めていく。

先日、仕事終わりに久しぶりに一人の時間をゆっくり過ごすために近くの飲食店に向かった。ビールと少しのおつまみを頼み、店主と横に居合わせた方と少し雑談をした。そこには、自宅で缶ビールをあけるのとは異なる時間、そして空間が広がっていった。仕事も食事も自宅の期間が長くなったからこそ、外食は非日常、特別感が際立つようになったと改めて感じた瞬間であった。

飲食業界のいま

コロナ禍、店舗営業ができないことから外食産業ではデリバリー・テイクアウトの強化、内食市場への進出がすすんだ。日常に特別感をもたらすような動きが加速したと言える。

■デリバリーとテイクアウト

ウーバーイーツやWoltなどの海外のデリバリープラットフォームと出前館をはじめとする国内デリバリープラットフォームの顧客獲得合戦は一時期のクーポンばらまき合戦からやや一服したように思える。コロナ禍により店舗営業ができない中自宅での食事を支えるべく急速に拡大した。出前館(TYO:2484)の決算説明資料によると、主要な経営指標が前年同期比で4倍超となっていることからも、その勢いをうかがえる。

コロナ禍では「ゴーストレストラン」という新しい業態も広がりを見せた。きちり(TYO:3082)は株式会社レストランエックスを設立し急拡大するデリバリー需要を取り込む動きを見せている。既存店舗約半数をゴーストレストランとし各店舗で10業態の営業を行っている。売り上げ比率は20%に達しているという。

スタートアップのKitchenBaseは住宅街に近い立地を取得しながらゴーストレストランの出店を行っている。需要の多い立地を選択しているからこそ自社ブランドでは月商450万円を達成したこともあるという。

■内食市場への進出

外食大手ロイヤルホスト(TYO:8179)は2019年から取組を進めていた「ロイヤルデリ」は好調のようだ。2021年12月期の四半期決算説明資料によると売上高は前年同期比2倍、会員数は4倍へと拡大している。

テイクアウトやデリバリーと異なるのは、オンラインの世界で戦うということだ。ECサイトの運営やオンライン上でのマーケティング活動など行える人材の確保も重要になるだろう。また店舗営業が再開する中でどのようにシナジーを作るのか、オンラインとオフライン双方からの取り組みも課題になると考えられる。

やっぱり強い?「サブスク」

自宅で過ごす時間の増加はお酒にも影響を与えている。総務省統計局の家計調査によると、2020年、1世帯当たりの年間支出額のうち外食費(外での飲酒代含む)は大幅に減少したが、自宅での酒類の消費額は増えている。

キリンビールの「ホームタップ」は工場から直接自宅にビールが届くサブスクリプションサービスである。実は私も会員であるが、お店の喉越しを自宅で手軽に味わえるのは非常に魅力である。2017年からサービス開始をし、2021年8月に10万人の会員数を突破した。同年の会員目標を15万人に上方修正し、年内には15億円を狙う事業に成長する見込みだ。(1万円前後のプランからの推計)

また、ミールサブスクリプションというサービスが国内でも広がりを見せつつある。ランチを中心に500円前後の金額で週に数回食事が届くサービスである。スタートアップが手がけるサービスであるポトラックは1食490円でで提供する。これまではオイシックス(TYO:3182)や海外ではブルーエプロン(NYSE:APRN)のようなミールキット(少し手を加える必要がある)が中心だったように思うが、デリバリーに近い感覚のサービスが出てきている。

飲食業界のデジタル化

飲食業界が復活の兆しを見せる中、おそらく加速するであろうデジタル化の波についてみておきたい。やはり海外を見ることが日本のこれからを予測を簡単にしてくれる。2011年創業のユニコーン企業toast(NYSE:TOST)はレストラン管理システムとPOSシステムを提供するSaas企業である。海外ではオンライン化したレストラン運営が実現できつつあるようだ。一方で国内飲食業界では電機メーカーのPOSシステムを活用しており、ようやくタブレットPOSの普及しつつありオンライン化したと言える。また決済周りも様々なプレイヤーがおり複雑である。店舗システムで重要なPOSと決済を中心に変革が待たれる。

ところで、デリバリー企業が乱立したことにより店舗には注文受付用のタブレット端末が複数置かれるという問題が発生していた。これについては、スタートアップのOrdelyが様々なデリバリープラットフォームと連携する形で解消に向けて事業を進めている。

デジタルにより飲食店を効率的かつ負担少なく運営する術ができ始めている。しかしながらデリバリーやECなどオンラインを活用した市場の創造はややもすると飲食業界に「冷たさ」をもたらす。人と人との繋がりや作り手の想いがもたらす「温もり」がなくなっていくことにつながりかねない。

コロナ禍による消費者価値観の変化や人手不足(人件費)などの構造的な変化は飲食業界が変わる契機でありながら危機でもある。デジタルを活用しながらも、これまで飲食業界が提供していた価値を再定義していくことが重要とも言えそうだ。

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編集後記

全焼した住宅の焼け跡から2人の遺体が見つかった事件に関連して、この家に住む女性に対する傷害容疑で19歳の少年が逮捕されました。少年の供述や現場の状況から、2人を殺害した後に放火したのではないかと思われます。

2人に対する殺人と放火が事実であれば、少年と言えども極刑の可能性が高い事案ではないでしょうか。少年の死刑判決では今月11日、2010年に宮城県石巻市で3人を殺傷した当時18歳だった千葉祐太郎死刑囚(30)の再審請求で特別抗告を棄却する決定がされました。

こちらは、裁判員裁判による少年事件として、初めての死刑判決となる注目の事件でした。2つの事件は共に少年というだけではなく、犯行態様がよく似ているように思います。

裁判で死刑判決が言い渡されたり、死刑が執行される度に世論を賑わせるのが死刑の是非についてです。死刑制度の廃止を訴える団体・個人の主な論拠となっているのが、

①死刑は残虐で非人道的な刑罰だから許されない

②誤判・冤罪の可能性があり、執行されてしまえば取り返しがつかない

③死刑に犯罪の抑止力があるかどうか分からない、検証できない

④死刑制度廃止は世界的な潮流である

これらが主な論拠だと思いますが、①については、そもそも死刑判決を受ける人間は、死刑になって然るべき残虐で非人道的な犯罪を犯しています。その刑罰として執行される死刑が残虐で非人道的とされるなら、被害者とその遺族は報われません。

②の誤判・冤罪については、刑事裁判の経験者である私からすれば、現在の科学的捜査と裁判制度下では(無期懲役・死刑など重大事件において)まずあり得ません。過去の冤罪事件も最新のDNA鑑定によって無罪となっています。そもそも、死刑判決に限らず、全ての刑事裁判で誤判・冤罪は許されないのです。100%を求めるなら裁判制度自体を否定しなくてはなりません。また、死刑判決が考えられるような重大事件では、捜査から公判まで徹底した検証と審理が行われており、確定から執行までにも十分な再チェックがされています。なにより、災害死でも事故死でも、人の死に取り返しのつく死は存在しないのです。

③の犯罪抑止力については、それを検証・証明する術がありません。それと同じく、死刑制度を廃止しても凶悪犯罪が増加しないという検証・証明も不可能です。犯罪の抑止力の証明より、「人を殺したら死刑になるかもしれない」というルールこそ重要なのだと思います。

④死刑制度はまだ多くの国が存置しています。他国の法制度がどうかなど関係ありません。日本は国民主権の国家です。7割以上の国民が死刑制度維持を支持しているのですから、死刑制度の廃止は国民主権の否定になります。日本人の持つ命に対する考え方や価値観など、死刑廃止国との文化的差異も考えなくてはなりません。日本には古来から、命を持って償うという考え方もあるのです。

死刑制度を考える上で「なぜ人を殺してはいけないのか?」という道徳的な問いに答えを出さなくてはなりません。「人を殺してはいけない」のは誰もが当然のこととして認識していると思います。しかし、その理由を明確に答えるの難しいのではないでしょうか。それでいいのです。「人を殺してはいけない」ことは人として当たり前なことなので論理的に説明する必要はありません。「自分がされて嫌なこと困ることは他人にしてはいけない」子供の頃から家庭でも学校でも教わる道徳的観念です。

死刑判決を受けるような事件は、ほとんどが想像を絶する残虐な犯罪です。同じ人間とは思えない行いを平然と実行しています。最近は1人の被害者でも死刑判決が言い渡されることがありますが、多くは複数の人を殺害して死刑判決に至っていると思います。そのような犯罪を実行する人間に更生など望むのは不可能ですし、その必要もありません。

「人を殺してはいけない」なら死刑によって人を殺すこともいけないという論も成立するように思いますが、これは詭弁です。殺される罪のない人と、人を殺し刑罰として死刑を執行される者の命を同等に扱うのがおかしいのです。

「人を何人も殺せば死刑になるかもしれない」というのは誰でも想像ができることです。死刑制度を廃止して「何人殺しても死刑になることはない」社会を考えると恐ろしいです。そもそも、死刑になるような犯罪を犯さなければ、死刑になることはないのです。

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猫組長TIMES 次回は10月17日「今週の相場見通し」です。

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