9/3 電気自動車(EV)の未来 - 前編 -

欧州では2035年に内燃機関型自動車の実質販売禁止が発表され、環境配慮の流れは自動車業界にも影響を与えている。自動車業界は第二次産業革命以来の技術革新のただ中にいるといっても過言ではない。2回にわたり電気自動車を取り巻く環境を解説する。今週は前編として自動車産業の変化を各国の規制や電気自動車普及に向けた動向を概観する。
NEKO TIMES 2021.09.03
誰でも

みなさんこんにちは、猫組長です。

今日は岩倉氏による電気自動車(EV)の未来についてをテーマとした記事をお送りいたします。EVは投資においても主要なテーマとして今後も注目を集める分野です。前後編にわたる読み応えある内容となっていますのでお見逃しなく。

ESG投資とは - お金の流れを変える社会の流れ」(2021年8月27日配信)では環境・社会・ガバナンス(ESG)が金融・経済と切っても切れない関係にあることをお伝えした。今週と来週の2回にわたって、環境(E)に焦点をあてながら自動車産業を取り上げ、技術革新・規制強化による業界の変化について深掘りしていく。今週は前編として電気自動車に関する各国の動向をお伝えし、来週(9/10配信予定)は電気自動車普及のカギを握る技術ーリチウム電池・全固体電池や半導体ーに注目して後編をお届けする。

経済成長と技術革新

持続的な経済成長は技術進歩だけではなく技術革新によってももたらされている。第1次産業革命(18世紀後半~19世紀中期)は蒸気機関、第2次産業革命(19世紀後半~20世紀初頭)は内燃機関と電力が社会全体に広く行き渡り様々な分野における技術進歩を牽引した。

いま私たちは産業革命以来の技術革新の真っ只中いる。内燃機関型の自動車が馬車に取って変わったように、これから電気自動車(EV)が世界を席巻する日も近い。"脱炭素"や"グリーンエネルギー"と環境を配慮するトレンドは自動車業界でも止められない。そして「EV」は20世紀以降の汎用的技術であるコンピュータ・インターネット(ICT)技術と組み合わさることによって新たな経済成長の原動力になるだろう。

ボストンコンサルティンググループ -<i>Who Will Drive Electric Cars to the Tipping Point?</i>

ボストンコンサルティンググループ -Who Will Drive Electric Cars to the Tipping Point?

ボストンコンサルティンググループの調査によると電気自動車(ハイブリット車等を含む)は、2025年には世界新車販売台数の約30%を占め、2030年にはガソリン車とディーゼル車の合計を超えて51%のシェアを獲得すると推計した。特に、バッテリー駆動の電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)のシェアは急速に拡大すると見込んでおり、BEVのシェアは2019年の2%から、2025年に7%、2030年に18%、PHEVは2019年の1%から、2030年には6%と試算している。

このような変化は3万点以上の部品を組み合わせて作る自動車を支える自動車産業に大きな構造変化をもたらす。自動車メーカーを頂点とする裾野の広いこの業界はどう変わっていっているのか。

電気自動車を取り巻く各国の状況(規制)

国連気候変動枠組条約にもとづいて1995年より国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催され、実効的な温室効果ガス排出量削減の実現に向けた議論が精力的に行われてきた。潮目は2015年12月に採択されたパリ協定だ。第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みを合意し、各国におけるCO2排出量に関する規制強化が始まった。

世界市場のおよそ9割が規制を行なっており、その多くがCAFE(企業平均燃費)規制を取り入れている。主要地域・国では、2020年までの5年間で20~30%の燃費改善を求められており、内燃機関だけでは対応が難しい状況だ。

欧州においては長らく産業保護の観点から規制強化は慎重に検討を進めていたが、独フォルクスワーゲン社の排気ガス試験の不正に端を発し環境配慮が叫ばれるようになった。2019年に「欧州グリーンディール」で2050年までに温室効果ガス排出が実質ゼロを目指すと発表した。そして2021年7月に関連法案として内燃機関・ハイブリッド型自動車の販売禁止を発表した。

われわれは産業改革だけではなく、気候危機という存続に関わる脅威にも直面している。気候対策を円滑に進めていく余裕はない。かなり大胆に行動しなくてはならない。
欧州委員会ティメルマンス執行副委員長(欧州グリーンディール政策統括・気候変動対策)

アメリカではバイデン政権が2050年のカーボンニュートラルと2030年の温室効果ガス排出量の50~52%削減(2005年比)を目標に掲げている。政権発足時には「SAFE規制」や「One National Program」などについて、見直しや停止に関する大統領署名を行い環境対策を重視する姿勢を見せた。また、これによりこれまで同国において最も厳格な規制を採用してきたカリフォルニア州およびその準拠州の動きにも注目が集まる。今後、「ZEV規制」と呼ばれる一定比率の無排出ガス車(ZEV)の販売を義務付けを認める可能性が高く、実現すれば、自動車メーカーや関連企業の電動化事業計画に大きな影響を与える。

世界最大の消費国である中国はどうだろう。こちらも規制強化のトレンドは他の国と変わらない。ガソリン車の新車販売を抑制しながら電気自動車(EV)をはじめとする新エネルギー車(NEV)の新車販売を促進するために「NEV規制」を導入した。また、メーカーごとに販売車両の平均燃費に関する「CAFC(企業平均燃費)規制」も導入し環境に配慮した制度整備を進めている。2021年以降、段階的な規制強化や罰則も検討されている。

日本における電気自動車の動向

日本では、2019年には新車販売台数の約4割である430万台まで次世代自動車は普及している中で、世界各国の動きと連動する形で、電気自動車(EV)をはじめとする次世代自動車(ハイブリッド車を含む)の普及に向けた動きとガソリン車をはじめとする内燃機関の要する自動車に対する規制の両輪で動いている。

普及にあたっては、電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHEV)などのCEV(クリーンエネルギー自動車)を新車で購入する際、一定の条件を満たせば国の補助金を活用することができる。従来から経済産業省が実施していた「クリーンエネルギー自動車導入補助金」に加えて、環境省も「災害時にも活用可能なクリーンエネルギー自動車導入支援事業」を開始した。最大で80万円程度の補助がある。

一方で規制はどうだろう。日本では自動車の排出ガス規制は1966年から始まる。2000年代に入りガソリン車に対して新短期規制としてCO、HC、NOxの排出基準の強化、車載式故障診断(OBD)システムの装備義務付け等を実施した。また、ディーゼル車に対しては(では、規制は排出ガス規制をNOx、PM等の規制強化等を実施した。

2005年にはガソリン車、ディーゼル車とも排出ガス試験法を見直し、新長期規制を実施し、2008年にポスト新長期規制)を実施した。2015年にはディーゼル重量車及び二輪車の排出基準の強化を実施し、自動車の排出ガスのさらなる低減を図ることとしている。

なお、日本経済新聞(2021年8月6日/電子版)によると日本の自動車メーカーはバイデン政権の大統領令と新たな燃費規制に賛同する声明を発表したと報じている。我が国の規制は海外の基準を睨みながら整備されていくことになるだろう。

電気自動車の普及のカギとは

これまでは規制を見ていたが、電気自動車の普及にはユーザビリティの観点を忘れてはいけない。ガソリン車に比べて航続距離が短かったり、自宅(車庫)や街中における充電環境の整備など様々な問題がある。インフラとしての問題だけではなく、技術的な問題、電池・バッテリーの技術が関わっている。現在主流のリチウム電池、開発が進む全固体電池だ。

今週はここまでとし、次週これらの技術を取り巻く環境・動向について解説していきたい。9/10の配信をぜひ楽しみにていただきたい。無料会員登録しておくと、あなたのメールボックスにニュースレターが配信されます。見逃し防止のためお気に召したらぜひご購読ください。

編集後記

東京は天気の悪い日が続いています。気温も下がり一気に秋めいてきました。今年も新型コロナの影響で夏らしい過ごし方ができなかったのがとても残念ですね。

FATF(Financial Action Task Force)通称ファトフ=金融活動作業部会は、マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策(AML/CFT対策)に関する国際間協力を推進するために設置された各国政府間による会合・グループです。

日本が本格的にAML/CFT対策を強化し始めたのは1990年からです。平成バブル景気の終末期でしたが、日本の経済力はまだまだ勢いが衰えず海外への投資や資金移転が盛んでした。この頃から、暴力団も海外進出が盛んになり、海外不動産の購入や外貨による預金が流行るようになります。法の空間をまたぐことで捜査機関や国税局の追跡が困難になり、資金の隠匿が容易いと暴力団も気づいたのです。

FATFはその前年1989年に薬物犯罪に関するマネー・ローンダリング対策における国際協力強化のため、先進主要国を中心として設立されました。そして1990年に各国が刑事法制及び金融規制の各分野でとるべきマネー・ローンダリング対策の基準を策定しました。これが現在のAML/CFT対策のベースであるFATF「40の勧告」です。

FATFはこの40の勧告を元に各国のAML/CFT対策への取り組みを審査・評価してきました。日本では2019年秋から第4次対日相互審査がされてきたのです。その結果ですが、FATFの報告書によると日本は実質的に不合格の「重点フィローアップ国」となりました。これは当然と言えば当然の結果です。日本の金融機関は世界的に見てマネーロンダリングにはとても寛容でまさにマネロン天国なのです。

TJN(Tax Justice Network)のFSI(金融秘密度指数)=金融の不透明度によると日本は世界で堂々7位にランクインしています。FATFによる第4次対日相互審査で実質的な不合格とされた日本は、これまで以上に金融取引が厳格化されていくと予想されます。マネーロンダリングの実情についてその実例など交えながらはまた次回詳しく解説したいと思います。

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猫組長TIMES 次回は9月5日配信「猫組長の相場見通し」です。

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