解説|『失われた30年』への審判ー参院選が示す日本政治の地殻変動

従来の二大勢力構図が崩れ、政治の多極化が進行。7月20日の参院選は「失われた30年」を終わらせる転換点となりうるか。
猫組長 2025.07.19
誰でも

NEKO TIMESは、短期目線に振り回される投資家を救済することを目的に、マクロかつ中長期の視点からビジネス・経済や為替・株式市場の話題を取り上げます。投資家に限らずビジネスパーソンの方も数多くご登録いただき、22,000人を超える読者の皆様が購読するニュースレターメディアとして、成長を続けています。

サポートメンバー(有料会員)向け配信では、個別銘柄の値動きの解説も行い「売買の意思決定に直接関わる情報」を読者限定で配信しています。日曜日に配信する【猫組長|今週の相場見通し】では為替動向にも触れます。水曜日に配信する中沢氏が分析する日米株式情報も見逃せません。一部配信を有料読者に限定し、個別銘柄を解説しています。そして、有料版読者の皆様には特典として猫組長と直接交流できるオンラインライブイベントへご招待しています。

***

NEKO ADVISORIES 岩倉です。毎週金曜日のNEKO TIMESは話題のニュースを取り上げ、経済・ビジネスのトレンドについて解説します。

7月20日に迫った第27回参議院議員選挙。従来の世論調査(時事通信読売新聞)に加え、ビッグデータを活用した議席予測なども注目を集める中、各種分析結果には興味深い傾向が表れています。自民党の議席減と国民民主党、参政党、日本保守党といった新興勢力の躍進という共通の見通しが示されています。今回の選挙は従来の自公対立憲民主を軸とした二大勢力の対立構造から、国民民主、参政党、日本保守党といった新興勢力に加え、チームみらいのような若い世代を意識した政治団体の出現も見られる多極化した政治情勢へと変化しつつあります。

今回の参院選挙を通じて「失われた30年をどう捉えるか」について考えを整理するべきではと考えています。この間、日本を取り巻く環境は大きく変化し、国内でも様々な構造変化が起きてきました。経済面では企業利益が増加する一方で賃金が停滞するという現象が続き、多くの国民が実感する「豊かさを感じられない社会」が形成されてきました。

新興勢力は外国人問題への対応、SNS選挙規制の見直し、テクノロジーを活用した行政効率化など、これまでの政治的議論では十分に深掘りされてこなかった論点も前面に押し出しています。こうした新しい視点には注目すべき要素も多く、それぞれの政策の妥当性や実現性について慎重に吟味していく必要があります。(参考:主な論点と各政党・政治団体のスタンス

本日のニュースレターでは、参院選投開票日を前に、政治地図を塗り替える可能性のある変化の兆しを、国内外の動向を交えながら分析いたします。お読みいただいた後に選挙ドットコムなどのツールを活用し、ご自身の考えに近い政党を見つけてください。ぜひこの重要な選択に準備して臨んでいただきたいと思います。

<本日のトピック>
・自民への逆風と新興勢力の台頭
・賃金停滞と負担増の30年
・テクノロジーで変える政治とカネ
・世界に広がる従来政治への挑戦

自民への逆風と新興勢力の台頭

時事通信社の7月世論調査が示した自民党支持率16.4%という数字は、石破政権にとって衝撃的な結果でした。(時事)これは2009年の衆院選直前、麻生太郎内閣時代と同水準であり、自民党が野党転落を経験したあの時と同じ逆風にさらされていることを意味します。第1次安倍内閣の参院選敗北時(19.7%)をも下回る数字は、現在の自民党が置かれている厳しい状況を如実に物語っています。

この危機的状況に追い打ちをかけているのが、党内からの相次ぐ失言です。鶴保庸介参院予算委員長の「運がいいことに能登で地震があった」発言や、三原じゅん子こども家庭庁担当大臣が「公金中抜き」への反論で示した資料がかえって「公金中抜きランキング」として揶揄される事態など、政権の信頼性と資質が問われる状況が続いています。

一方で、この自民党の苦境とは対照的に勢いを見せているのが参政党です。神谷宗幣代表は獲得議席目標を従来の6議席から20議席へと大幅に上方修正し、「予算を伴う法案が単独で出せる」レベルまで勢力拡大を目指す姿勢を鮮明にしています。(時事

参政党の支持拡大の背景には、「日本人ファースト」を掲げた外国人受け入れ制限、減税、歴史教育見直しといった政策があります。神谷代表は既存政党への影響力を自負しており、記録的インバウンドと物価上昇に不満を抱く有権者層、そして石破政権に物足りなさを感じる保守層を確実に取り込む意向です。(ブルームバーグ

これらの政治変動の背景には、多くの国民が実感している経済的な停滞があります。参院選での与党過半数確保が微妙な情勢となる中、新興勢力が掲げる減税政策や経済改革への期待が高まっているのも、この30年間で何が失われ、何が変わらなかったのかを有権者が肌で感じているからでしょう。次章では、具体的な数字とデータを通じて、この「失われた30年」の実態を検証していきます。

賃金停滞と負担増の30年

2024年の衆議院選挙で「手取りを増やす」を掲げた国民民主党が躍進した背景には、多くの国民が実感している深刻な所得減少と負担増加があります。

平均所得は1995年の664万円から2024年には536万円へと128万円も減少しました。中央値でも545万円から410万円へと135万円の大幅減です。(参考:国民生活基礎調査)国際比較では、時給換算でドイツ37.7ドル、フランス33.1ドル、英国28.9ドルに対し、日本はわずか24.6ドルと先進国の中でも際立って低い水準となっています。(リクルート

さらに深刻なのは、収入減少と同時に負担が増加していることです。国民負担率は1995年の35.7%から2025年には46.2%へと10.5ポイント上昇しました。(財務省)この結果、家計の実際の手取り額は月額1.1万円減少し、消費支出は月額5.3万円も減少。家計が消費に回す割合も75.7%から64.4%へと大幅に下がり、将来不安から「守りの家計」に変わっています。また、世帯年収による分断も見え隠れします。(参考:大和総研

税制の構造を見ると、所得税では既に多くの人が低い税率で負担している状況です。一方で、働き方が多様化するなかで新しい稼ぎ方で収入を得ている人への配慮、金融資産への課税のあり方など、所得税の公平性をめぐる議論は複雑な課題となっています。

こうした中で新興勢力が注目しているのは、逆進性のある消費税です。参政党は消費税の段階的廃止、国民民主党は消費税を一律5%に減税、日本保守党は食料品の消費税率をゼロ%にするなど、各党が大胆な消費税減税政策を掲げています。物価上昇が続く中で、所得の多少に関わらず負担を求められる消費税の軽減は、30年間蓄積された家計の苦境に直接的な効果をもたらすと期待されているのです。

所得税と消費税の違い 所得税は所得が高いほど税率が上がる累進課税で、現在は約6割の納税者が最低税率5%の負担です。一方、消費税は所得に関係なく一律10%で、低所得者ほど家計に占める負担割合が重くなる逆進性があります。

第3章:政治の透明性とデジタル変革への期待

第2章で見てきたように、多くの国民が月額1.1万円の手取り減少に苦しみ、消費を5.3万円も削らざるを得ない状況にある一方で、政治の世界はどうでしょうか。先月末に公開された国会議員の所得を見ると、議員1人当たりの平均は2513万円でした。政党を問わず全て2000万円を超え、国民の平均所得536万円との格差は実に4倍以上という現実があります。(NHK)この格差は単なる数字の問題ではなく、政治と国民生活の乖離を象徴しているのです。

さらに深刻なのは、相次ぐ政治とカネの問題です。旧安倍派の裏金事件では46人の「裏金議員」が衆院選に立候補し、18人が当選を果たしました。(時事)石破総理も当選1回の議員15人に1人10万円分の商品券を配るなど、政治資金の不透明な使用は後を絶ちません。(NHK)旧二階派、旧森山派、旧岸田派、旧茂木派と相次ぐ派閥解散は、既存政治への国民の不信がピークに達していることを物語っています。(NHK

こうした状況に対し、まったく新しいアプローチで注目を集めているのがチームみらいです。(参考:NHK)同団体は政治団体でありながら、すでに政治資金の流れをリアルタイムでダッシュボード公開するシステムを実装しています。銀行口座とクレジットカードをシステムに連動させ、「政治家がうそをつこうと思ってもうそをつけない」仕組みを構築しているのです。

安野たかひろ氏のX投稿より

安野たかひろ氏のX投稿より

チームみらいの革新性は透明性だけにとどまりません。市民提案によってこの10年間で200件以上の法律が実際に制定されている台湾を参考に、国民の声を直接政治に届ける仕組みの構築を目指しています。同団体は永田町のエンジニアチームを通じてこうした仕組みを開発し、オープンソースで他の政治家や政党も使える形で公開する姿勢を示しています。

従来の政治改革が「国会議員がルールを作ることで解決する」発想だったのに対し、彼らは「国民の意見からルールを作る」という根本的に異なるアプローチを取っており、これは政治の民主化そのものといえるでしょう。

国民が経済的困窮に直面し、既存政治への不信が高まる中で、テクノロジーによる透明性の確保と市民参加の拡大は、まさに時代が求める政治改革の方向性です。若い世代を意識したチームみらいの取り組みは、デジタルネイティブ世代にとって当然の発想かもしれませんが、永田町の常識を根底から覆す可能性を秘めています。政治とカネの問題を「終わらせる」という彼らの宣言が、果たして日本政治の新たな潮流となるのか、注目が集まっています。

世界に広がる従来政治への挑戦

これまで見てきた日本の現状——賃金の長期停滞、負担増、政治への不信——は、多くの国民に既存の政治システムへの嫌気をもたらしています。「失われた30年」という表現が示すように、現状を変えたいという渇望が有権者の間に広がり、政治の地殻変動が始まっているのです。

興味深いことに、こうした政治変動は日本だけの現象ではありません。コロナ禍を経た世界各国で、従来の政治秩序に挑戦する勢力が台頭しています。

イタリアではメローニ首相率いる右派政権が2022年の発足以来、着実に支持基盤を固めています。同政権は移民流入の大幅な抑制に成功し、経済指標でも南部地域の成長率が全国平均を上回るなど具体的な成果を示しました。これにより政権与党の支持率は発足時を上回る水準を維持し、政権の安定化が進んでいます。(ジェトロ

ドイツでも長期にわたった中道左派連立政権が終焉を迎え、2025年の総選挙では保守政党が政権復帰を果たしました。新たに首相となるメルツ氏は保守本流の立場から、従来の政策路線からの転換を掲げており、ドイツ政治の大きな方向転換が予想されます。(ジェトロ

イギリスでは伝統的な二大政党制に変化の兆しが見えています。移民問題や経済政策への不満を背景に、新興の右派政党が地方選挙で大きく躍進し、既存政党への挑戦者として存在感を高めています。これは戦後イギリス政治の基本構造に変化をもたらす可能性を秘めています。(NHK

これらの動きに共通するのは、グローバル化への反発と自国優先主義の台頭です。日本でも同様の変化が起きており、特に注目すべきは日本保守党の台頭です。同党は移民政策の是正を前面に掲げ、入管難民法の改正と運用の厳正化、経営・管理ビザの見直し、特定技能2号の拡大見直しなど、具体的な政策提案を行っています。さらに外国人の健康保険・年金を別立てにするという大胆な制度改革も主張しており、従来の政治では踏み込まなかった領域に切り込んでいます。(日本保守党

政治学者の吉田徹同志社大学教授が指摘するように、こうした新興勢力の台頭は既存政党との対立構図を変え、第三極の出現という新たな政治地図を描きつつあります。従来の自公対立憲という枠組みでは捉えきれない政治的対立軸が形成されており、これは欧米で見られた政治変動と同様の現象といえるでしょう。(ブルームバーグ

今回の参院選の結果は、2028年の任期満了に伴う参議院選挙(7月)と衆議院選挙(10月予定)に向けた政治の流れを決定づける重要な意味を持ちます。ただし、現在の石破政権への厳しい評価が続く中、政権運営が困難となれば衆議院の解散選挙が前倒しされる可能性もあり、この数年間が日本政治の将来を左右する分水嶺となりそうです。世界各国で起きている政治変動の波が日本にも本格的に押し寄せるのか——その答えは、まさに今回の参院選から始まる政治プロセスにあります。

***

編集後記

みなさんこんばんは、猫組長です。参院選も残すところ明日1日となりました。マイク納めとなる街頭演説の場所取りが既に始まっています。紅白歌合戦の大トリと同じく、マイク納めは候補者にとって大事な締め括りです。

3日の公示から16日間、炎天下の中を全力で走り続けた各候補者には、悔いのないマイク納めをして欲しいと思います。過半数割れが確実な自民公明ですが、落選が濃厚な候補者が醜い選挙活動を繰り広げています。中には「助けてください」と泣き落としの恥知らずもいて失笑しかありません。LGBT理解増進法、再エネ推進、不法外国人・不良外国人の流入推進、増税、国民の望まないことを散々推し進めてきてこのザマです。

そして、選挙になれば土下座でもしそうな勢いでお願いしておいて、いざ当選すると踏ん反り返る毎度のパターン。もう自民・公明は国民の敵でしかありません。さて、今日の午後便で帰京するスタッフを新千歳空港に送って行きました。お昼時だったので、空港近くにあるスープカレーのGARAKUへ寄ってから空港に行きました。

スタッフを送り届け、1人で道央道を運転して帰っていると、前方に見たことのある車が走っていました。日本保守党北海道支部のブルーサンダル号です。この広い北海道で偶然に出逢う確率はどのくらいでしょう。私は慌てて追いかけました。横に並んで車内を除くと平井宏治さんが乗っておられました。本当に驚きです。何か不思議な縁を感じました。

平井宏治さんも選挙応援で日本中を飛び回ってくれました。今回、選挙は多くの人に支えられているということが良く分かりました。自民・公明にはそんな当たり前の事は忘れてしまったのでしょう。自民・公明の衰退は必然だったのだと思います。

参院選、明日は最終日、最後まで頑張りましょう。

***

次回は7月20日(日)です。専属アナリスト中沢氏による「今週の相場見通し」をお送りします。サポートメンバー(有料購読者)の皆様にのみ配信となりますので事前にご登録をお願いいたします。ぜひ先週配信記事で今週の相場の振り返りを行ってみてください。

無料で「NEKO TIMES」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
迫る参院選|各党の政策と若年層の思想
サポートメンバー限定
相場見通し|参議院選挙による株価の行方
読者限定
解説|トランプ圧力下の参院選、問われる日本の進路
サポートメンバー限定
またもやイーロンとトランプに亀裂|テスラの下落について考察します
サポートメンバー限定
相場見通し|高値更新後のマーケットは上昇か一服か
読者限定
解説|トランプ経済戦略、大きく重い代償ー変わりゆくドル覇権
サポートメンバー限定
株式VS債券 分散投資の価値とは
サポートメンバー限定
6月29日開催ZOOMミーティングアーカイブス