解説|中東和平、なぜ遠い——核軍縮交渉が埋まらない理由
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NEKO ADVISORIES 岩倉です。中東の核交渉が、いよいよ正念場を迎えています。
「最終段階にある」トランプ米大統領がそう語った米イラン核交渉。バンス副大統領も「大きな進展があった」と続け、その言葉は市場を動かしました。5月21日、ニューヨーク株式市場のダウ平均は5万285ドルを超えて史上最高値を更新。原油価格は2週間ぶりの大幅な下落となり、和平への期待が投資家心理を塗り替えています。
ただ、交渉の現場は楽観論とは温度差があります。トランプ氏はイラン側を「理性的な人々」と評しながらも、合意まで一切の救済措置を行わない姿勢を崩していません。イランが保有する高濃縮ウランの扱いをめぐり、米国が「回収・破壊」を求めるのに対し、イラン最高指導者は国外搬出を禁じる指示を維持したまま。ホルムズ海峡では通過船舶が増え始めているものの、イランの新設機関「ペルシャ湾海峡庁」がUAEの海域を含むエリアの管理権を主張し、UAE側が猛反発するなど、緊張は別の形で続いています。
その影響は、日本にも直接及んでいます。中東からの原油輸入が7割近く減少するなか、ホルムズ海峡を通過した原油タンカー「出光丸」が25日にも名古屋港へ到着する見込みです。中東情勢が悪化して以降、同海峡を経由して日本に届く初めてのタンカーとなります。(時事通信)
今週のニュースレターではでは、この交渉の現在地をひもときます。まず中東で何が起きているのかを整理し、なぜ合意が難しいのか、各国の思惑を読み解きます。核軍縮をめぐる歴史的な経緯を振り返り、そして交渉が妥結しない場合に世界経済が直面する現実へと目を向けます。
<本日のトピック>
船は戻っても、火種は残る
合意を阻む、それぞれの事情
核をめぐる70年の宿題
ドルの柱が傾く日
船は戻っても、火種は残る
ホルムズ海峡に、少しずつ船が戻ってきています。イラン革命防衛隊の発表によれば、5月22日の24時間だけで35隻の商船が海峡を通過しました。先週の通過数は54隻と前週の約2倍。中国の大型タンカー2隻(計約400万バレル)や韓国の船舶も、イラン側の管理下で海峡を抜けています。数字だけ見れば、状況は改善しているように映ります。
ただ、この通過にはイランの「許可」が必要です。イランは新たに「ペルシャ湾海峡庁(PGSA)」を設立し、事前連絡と通行料の支払いを船舶に義務付ける方針を打ち出しました。(ロイター)これに対しUAEは「見果てぬ夢だ」と真っ向から否定し、海峡を迂回する第2パイプラインの建設(現在50%完了)を急いでいます。(CNBC)湾岸5カ国もPGSAを通じた航行を拒否するよう自国の商船に求めており、海峡の「管理」をめぐる争いは新たな局面を迎えています。
軍事的な圧力も、依然として消えていません。トランプ大統領は5月19日、攻撃命令まで「あと1時間」のところまで踏み込みながら、近隣国の要請を受けて中止しました。(ロイター)イラン革命防衛隊は「攻撃が再開されれば、壊滅的な打撃で敵を粉砕する」と声明を発表しています。(AFP)
封鎖の影響は、数字を見れば一目瞭然です。開始以降に失われた石油は累計10億バレルを超え、今も毎週約1億バレルが失われ続けています。(ロイター)仮に今日停戦が実現しても、供給が通常の80%水準に戻るには少なくとも4カ月、完全な正常化は2027年までかかるとの見方もあります。日本では共同備蓄の取り崩しが続き、残量は急減しました。出光丸の帰港は確かな前進ですが、その一隻が象徴するのは、まだ遠い道のりでもあります。
合意を阻む、それぞれの事情
交渉が「最終段階」にあると言われながら、合意の輪郭はいまだ見えません。(ロイター)この膠着の背景には、条件の隔たりだけでは説明できない、各国固有の事情があります。
米国が絶対に譲れないのは二点です。イランの核開発を「本物の20年間」止めること、そして高濃縮ウランを回収して破壊すること。前政権が結んだ合意には、一定期間後に制限が自動解除される「サンセット条項」が含まれており、トランプ政権はこれを将来的な核保有への抜け道と見なしてきました。(BBC)バンス副大統領はさらに一歩踏み込み、イランの核保有を容認すれば湾岸諸国が次々と核武装に動く「核の連鎖」を招くと警戒しています。今回の交渉は、中東の核秩序そのものを賭けた場でもあります。(BBC)
イランの抵抗には、体制の論理があります。最高指導者が濃縮ウランの国外搬出を禁じているのは、核開発能力が政権の存続と不可分だからです。交渉でイランが突きつけているのは、戦争被害の補償、制裁の全面解除、凍結資産の返還、そして米軍の中東撤退。「核を手放すなら、それ相応の対価を」という要求は、米国にとって到底受け入れられるものではありません。革命防衛隊が停戦中に戦力を再建したと誇示しているのも、交渉テーブルでの自国の値打ちを高めるための計算です。
イスラエルも、この交渉の外にはいません。ネタニヤフ首相はイランの濃縮ウラン備蓄の完全排除を戦争終結の条件に掲げており、一時停止では不十分という姿勢を崩していません。(ロイター)支援活動家への虐待が動画で拡散したことでイタリア、スペイン、アイルランド、英国から外交的な批判を受けており、強硬路線を維持できる国際環境は確実に狭まっています。(時事通信)
そのなかで異彩を放つのが、パキスタンの立ち回りです。自らも核を持つ国として、核をめぐる交渉に独自の重みで関わることができます。サウジアラビアへ兵士8000人と戦闘機16機を送り込んでイランへの抑止力を保ちながら、一方でテヘランに足を運んで米国のメッセージを届ける。相反する役割を同時に担うこの外交は、現在機能している唯一の仲介ルートとなっています。(ロイター)
核をめぐる70年の宿題
今回の米イラン交渉を理解するには、核をめぐる国際秩序がどのように形成され、なぜ機能不全に陥ってきたかを振り返る必要があります。
核管理の根幹をなすのが、1968年に署名された核兵器不拡散条約(NPT)です。この条約は、1967年以前に核実験を行った米・露・英・仏・中の5カ国にのみ核保有を認め、それ以外の国には禁じるという枠組みです。国際的な核秩序の礎として機能してきた一方で、「持てる国」と「持てない国」を国際法で固定化するという二重基準を内包しています。NPT第6条は保有国に核軍縮交渉を義務付けていますが、法的強制力がなく、非核保有国が義務を守る一方で保有国が近代化を進めるという不均衡は今も続いています。
イランとの関係は、皮肉にも米国自身が種をまきました。1950年代、「平和のための原子力」計画のもと、パフラヴィー国王時代のイランに研究炉などの技術が提供されました。(外務省)イランがNPTに署名したのは1968年のことです。しかし1979年のイスラム革命で親米政権が倒れると、イランは西側との関係を断ち、パキスタン・中国・ロシアから技術支援を受けながら秘密裏に核開発を進めます。その実態が国際社会に知れ渡ったのは2002年、反政府組織によるナタンズの未申告ウラン濃縮施設の暴露がきっかけでした。(BBC)
その後の交渉の集大成として2015年に成立したのが、米英仏露独中とイランによる包括的共同行動計画(JCPOA)です。(外務省)イランが核開発を制限する見返りに経済制裁を解除するこの枠組みは、しかし長続きしませんでした。2018年、トランプ大統領は「サンセット条項」の不備とミサイル規制の欠如を理由に一方的に離脱します。(BBC)JCPOAが条約ではなく大統領の行政措置に基づく合意だったため、政権交代によって容易に覆るというリスクが現実になりました。米国の「二次的制裁」の影響が強すぎたことで欧州諸国もイランとの経済関係を維持できず、イラン側が合意を守るインセンティブは失われていきました。
今回トランプ氏が「本物の20年間」の核開発停止を条件に掲げているのは、こうした歴史への反省があります。期限付きの合意では恒久的な非核化を担保できないという教訓が、より長期的な封じ込めを求める姿勢につながっています。国連のグテレス事務総長は、核不拡散体制が「危機的な状況」にあると警告しており、今回の交渉は一度崩壊した枠組みを軍事衝突の後に再構築できるかという、前例のない試みでもあります。そしてその答えが出ないまま時間が過ぎるほど、世界経済への打撃は深く、広くなっていきます。
ドルの柱が傾く日
ホルムズ海峡の封鎖は、エネルギーだけでなく「ものの流れ」そのものを止めています。中東は石油化学製品の世界的な供給源でもあります。エチレングリコールの世界シェアは49%、メタノールは38%、低密度ポリエチレンは32%、アルミ合金地金は18%。日本に限れば、原油の95%、ナフサの58%、メタノールの50%、アルミ合金の38%が中東からの輸入に頼っています。ナフサが滞れば化学産業が止まり、アルミ合金が届かなければ自動車の生産ラインが滞り、希ガスが不足すれば半導体の製造に影響が出ます。丸紅経済研究所はこの波及を4段階に整理しています。直接的な輸入制約、国内生産への制約、シンガポールなど第三国ハブを経由した間接波及、そして物価上昇や金融悪化という二次波及です。中東と直接取引のない産業や国にも、その影響は確実に届きます。

経済の数字も、すでに動き始めています。国連の予測によれば、紛争が続いた場合の2026年のインフレ率は先進国で2.9%、発展途上国では5.2%に達する見通しです。原油価格はWTIで1バレル100ドル前後での高止まりが懸念され、肥料供給の乱れが食料価格をさらに押し上げるリスクも重なります。世界経済の成長率予測は2.5%と従来から0.2ポイント引き下げられ、西アジアは3.6%から1.4%へ急減速する見込みです。(ロイター)金融市場にも圧力はかかっており、FRBの2026年内利下げ観測は一時「ほぼゼロ」まで後退。米10年債利回りは4.6%台へ、日本の10年債利回りも一時2.800%と29年ぶりの高水準に達しました。
そしてこの混乱は、より大きな構造変化の入り口でもあります。1974年以来、世界の原油取引はドルで決済され、産油国が受け取った余剰ドルは米国債の購入に回るという循環が続いてきました。「ペトロダラー体制」と呼ばれるこの仕組みは、米国が低コストで資金を調達し、ドルの基軸通貨としての地位を維持する上で欠かせない土台でした。産油国にとっても、ドル資産を積み上げることで政治的な安定と経済的な信用を得られるという利害が一致していました。
しかしその循環に、亀裂が入り始めています。原油収入が滞れば、産油国が米国債を買い支える余力も失われます。中東産油国が運用する約5兆ドルのソブリンウェルスファンドがドル資産の売却に動けば、米国債の需要が細り、長期金利の急騰を通じて世界の金融市場を揺さぶりかねません。UAEがすでに原油取引への人民元利用を示唆しているのも、その延長線上にあります。基軸通貨としてのドルの地位は、原油取引と米国債への還流という二本の柱で支えられてきました。その柱の一本が傾き始めています。(住友商事)軍事的には中東へ再介入しながら、経済的な影響力を失いつつあるのは米国です。
編集後記
みなさんこんばんは、猫組長です。
今日の都内は先日までとは一転、肌寒い1日でした。
ドワンゴは、8月1日よりニコニコプレミアムと有料ニコニコチャンネルの価格を値上げすると発表しました。月額790円だったニコニコプレミアムは、改定後990円になります。有料ニコニコチャンネルは、50%の一斉値上げとなります。月額880円のチャンネルなら1,320円に値上げされることになります。猫組長チャンネルはドワンゴと交渉して価格据置で落ち着きました。
今年1月にドワンゴから「一斉値上げをします」と通告を受けたのですが値上げに反対し、特例として現状価格を維持することが出来ました。ドワンゴ側は「なぜ売上が上がるのに値上げしないのか?」と何度も言ってきたのですが、非常に短絡的で長期的な視野に欠けていると感じました。
ニコニコチャンネルは消費行動において「娯楽」にカテゴライズされるものと思います。生活必需品とかとは違い、言わば趣味嗜好の贅沢品の一部ではないでしょうか。つまり、価格弾力性の高いサービスだと考えています。
生活に欠かせないモノやサービスは価格弾力性が低いため、値上げでそれほど需要が減るとは思えません。しかし、動画視聴や配信のようなサービスの需要は減少傾向が高いと思います。長期的な経営視点で考えるなら「値下げ」の方が需要と売上を増やすのに効果的でしょう。何より、私たち配信者が提供するサービスが、値上げでも変わらないという点が問題です。
50%の値上げで、今までより50%面白い配信ができるのか?と問われたらNoなのです。一斉値上げに便乗しても、売上げが増えるのは一時的な現象になると思います。ドワンゴは値上げついて、物価高で経営コストが増加しており、運営の効率化・合理化で吸収し続けることが難しいとしています。「経営が厳しいから値上げをする」という間違った選択の見本です。
「50%も価格が上がったのに何も変わらない」視聴は数ヶ月もすればそれに気付くでしょう。そうして、結局は「値上げなどしなければ良かった」とドワンゴも配信者も気付くでしょう。
次回は5月24日(日)です。専属アナリスト中沢氏による「今週の相場見通し」をお送りします。サポートメンバー(有料購読者)の皆様にのみ配信となりますので事前にご登録をお願いいたします。ぜひ先週配信記事で今週の相場の振り返りを行ってみてください。
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