「コミュニティ時代」のイノベーション

ソーシャルメディアにより個人の情報発信が容易に行えるようになりました。個人が主役の時代が続いているようにみえます。一方でWeb2.0からWeb3.0への変化においては、企業あるいは個人から、その中心はコミュニティそのものに軸足はうつっているようにみえます。
NEKO TIMES 2022.02.11
誰でも

こんにちは、NEKO PARTNERS岩倉です。毎週金曜のニュースレターではビジネスや経済のトレンドについて解説していきます。

先月末の記事でBuy Now Pay Later(BNPL)をとりあげました。2月に入りPayPayもあと払いサービスを開始しました。いよいよ、PayPayでも決済サービスにおける収益化がはじまりました。3月には同ボーナス運用でも一部有料化がはじまる予定です。

新商品や新サービスに関するニュースを目にしない日はありません。企業は「イノベーション」を生み出すことに注力しているともいえます。インターネット・オンラインのあり方が変わる中で、イノベーションという言葉の持つ意味はどう変わるのか、考えてみたいと思います。

<本日のトピック>
・イノベーションとは
・イノベーションのジレンマ
・コミュニティの持つ力

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イノベーションとは

1934年にオーストリアの経済学者シュンペーターは、著書で異質な新しいものを取り入れ既存の産業構造を創造的に破壊するプロセス(新結合)を実行することを「イノベーション」と呼びました。単なる技術革新ではなく、産業を大きくつくり変えていくことを指しています。また、その類型として、生産物・生産方法・市場・資源供給・組織をあげています。

2000年代に入り、インターネットはイノベーションの中心にあったといえます。企業・個人は時間や場所を選ぶことなくオンライン上でサービス提供できるようになりました。イメージしやすい例はAppleのiPhoneでしょう。シュンペーターの定義によれば生産物(プロダクト)から世界を変えたイノベーションといえます。実は、他の要素も十分に満たしています。Appleの製品には「Designed by Apple in California, Assembled in China」とあります。Appleでは企画設計のみ行い、製造は海外で行っています。すべて自前の生産方法をとっていません。また、App  StoreによってApple製品向けのアプリマーケットを生み出しています。Appleの発表によると、これまでに約30兆円の収益をもたらしています。

イノベーションのジレンマ

誰もがイノベーションを生み出すことができるのでしょうか。製品やサービスが市場に浸透すればするほど、そこから大きく変えることができなくなります。「イノベーションのジレンマ」です。

業界トップになった企業が顧客の意見に耳を傾け、さらに高品質の製品サービスを提供することがイノベーションに立ち後れ、失敗を招くという考え方。ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセンが提唱した。

身近なオンラインサービスで考えてみましょう。レシピサイトです。5年ほど前のことを思い出してみてください。みなさん、どのレシピサイトを使っていましたか?多くの方はクックパッドが頭に浮かんだのではないでしょうか。しかしながら、現在はユーザー数、収益ともにダウントレンドに入っています。(2021年12月期決算説明資料p21.

変わりに台頭しているのが、動画を活用したレシピサイトです。InstagramなどのソーシャルでDELISH KITCHENの動画を目にした方が多いのではないでしょうか。YoutubeやTikTokなど動画による情報伝達が進んでいく中、従来のテキスト・写真によるサービスからユーザーが離れていったのです。

クックパッドも写真から動画へのユーザーもわかっていたはずです。しかしながら、既存事業を守りながら、新しいことにチャレンジしていくこと、事業の軸をずらしていくことができませんでした。まさに現代のイノベーションのジレンマの例といえるでしょう。

コミュニティの持つ力

以前の記事でWeb3.0について解説をしました。これまでのイノベーションは企業が主役でした。これからはコミュニティに移り変わる可能性を秘めています。これまではデザイン思考や人間中心設計など、ユーザー・顧客視点でとらえることの重要性は語られてきました。クラウドファンディングもユーザー・顧客視点を起点にしたモノやサービスの開発のようにみえます。しかしながら、どんな場合もアイデアを持つ人がまず具現化し、その具現化したものに興味を持つ人が多くいるかどうかが大事な要素でした。

アイデアをつくること自体に、ユーザーや顧客(になりうるひと)が参加し共創するとき、どのようなイノベーションが生まれるのでしょうか。分散型自立組織(DAO:Decentralized Autonomous Organization)はひとつのかたちなのかもしれません。

DAOはコミュニティのメンバーによってブロックチェーンを介して所有・運営される組織形態であり、Web3.0においては自律的にコミュニティが発展するために最も多く用いられています。中央集権的な構造を排除し、意思決定にはコミュニティのメンバーによる投票で決まります。またすべてのアクティビティはブロックチェーン上に可視化されています。

これらの多くがコミュニケーションの場所にDiscordを活用しています。Discordは直近にNetflix元役員などを招へいし取締役を強化しており、2022年に上場するとも考えられています。国内ではスタートアップのcommmune(コミューン)がユーザーコミュティづくりを促すプラットフォームの構築を進めています。累計資金調達額は20億円を超える。将来は海外展開も目指すという。個人が主役から、コミュニティが主役となる日がくるのだとうか。

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編集後記

みなさんこんばんは、猫組長です。今年は東京もよく雪が降りますね。

今日は朝の6時に電話で起こされました。ロンドンに住む知人からです。向こうは夜の9時だから普通な感じで話すから頭に来ましたね。話を聞くとロシアから400万ドルほどロンドンへ資金移動がしたいというものでした。どうやら、ロシアがウクライナ侵攻して金融制裁を受ける前に資本逃避させたいということです。それほどウクライナ情勢は緊張が高まっているということでしょう。

資金主はモスクワに住むロシア人の宝石商で奥さんが日本人、娘さんはロンドンに留学中ということです。単純にロシアの銀行からロンドンへ400万ドルを送金するのは不可能でしょう。ロンドンでそれ相応の支払いを証明できる資料を用意して、正式な手続きをしても難しい案件です。法人口座でこれまでに英国と相当額の取引実績があれば可能でしょうが、個人口座となればほぼ不可能です。

現金を引き出すことが可能なら南へ陸路で運び、黒海経由でトルコへ持ち込めばロンドンへ届きます。3年ほど前ならエストニアに行けばダンスケ銀行がどうにでもしてくれたのですが、マネーロンダリングのやり過ぎで米国や欧州の捜査が入り厳しくなりました。トルコ・イスタンブールの銀行ならロシアやイラン、シリア、イラクなどの石油商からテロリストまでいくらでもロンドンへ資金移動させてくれます。しかし、モスクワの銀行が400万ドルのキャッシュを個人に用意できる訳がありません。

そこで、BD(Bank Draft)バンクドラフト=小切手での資金移動を提案しました。この場合、個人のパーソナルチェックではなく、銀行に発行してもらうBDのことです。日本で小切手と言えば人から人へ手渡しで移動するイメージですが、国際間の金融取引ではSWIFTを使う現金の送金と同じシステムで移動させます。しかし、SWIFTでBDを送ればドル建てですからSAR(不審行動報告書)によって米財務省のFinancial Crimes Enforcement Network(金融犯罪捜査網)=FinCENに補足されてしまいます。ロシアの銀行が知らぬふりをしても米ドルのコレスポンデント(中継銀行)が通報します。

海外送金とコレスポンデント(中継銀行)について解説しましょう。あなたが日本のみずほ銀行からスイスのクレディ・スイスにある自分名義の口座へ1万ドルを送金した場合とします。みずほ銀行からSWIFTで送られた1万ドルは、みずほ銀行がコルレス契約しているニューヨークのJPモルガン(これがコレスポンデントになります)のみずほ銀行口座へ届きます。次にこのJPモルガンにあるクレディスイス口座に、日本から届いた1万ドルが振替えられます。物理的な1万ドルが動くことは一切ありません。この1万ドルは最初から最後までニューヨークのJPモルガンにあったのです。つまり、全ては米国内の出来事ということです。

ドル建ての国際金融取引とはどこからどこの国へ資金移動や決済があっても、全て米国内の出来事なのです。本来、JPモルガンのみずほ銀行口座はニューヨークであっても治外法権となり日本の法空間です。クレディ・スイスの口座はスイスの法空間で、それぞれの国の方が適用されます。コルレス口座は治外法権というのが国際金融取引の基本です。ところが、米国政府は愛国者法に則って米国内の金融機関に対し、コレスポンデントの停止を命じることができるのです。これによって世界中のドル口座を凍結でき、ドルの流通を禁止することができるのです。これが米ドルの金融制裁です。

さて、SWIFTによるBDの送金は無理だとどうすれば良いかです。アナログな紙のBDをロンドンの銀行に持ち込むという手法がベストです。紙切れ1枚だからポケットに入れて簡単に持ち出すことができます。400万ドルのキャッシュなら持ち出し持ち込みとも不可能です(一部の国と地域では自由です)。そうして、ロンドンの銀行へ持ち込んだら、ロシアの発行銀行にBDのコンファメーション(発行確認と支払い確約)を請求させます。これでBDに盗難や詐欺、偽造などの問題がなければ、実行を開示するオープンコンファメーションとなります。

コンファメーションされたBDはすぐに現金化するのではなく、BDを担保に融資を受ける形で別の口座へ移すのが賢明でしょう。手数料と為替差損は発生しますが、英国内の勘定に混ぜることで安全度が上がります。この金融取引はマネーロンダリングに該当しますので実行しないで下さい。

猫組長TIMES 次号は2月13日です。

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