ウクライナ危機に隠れた本質的なリスク-今週の相場見通し

緊張の高まるウクライナ情勢にマーケットは不安定さが増しています。真偽不明の報道で上下を危険なボラティリティを孕む相場となりました。本質的なリスク要因が目先のウクライナ情勢に隠れた展開となっています。
NEKO TIMES 2022.02.20
誰でも

「地政学リスクは買い」という過去の経験則はウクライナ危機において通用しません。世界的なインフレ懸念に資源高という背景、その上、欧州の天然ガス供給問題がリスクを複雑化しています。FRBによるテーパリング加速への警戒感が高まっている中で、リスクの混在がボラティリティを高めています。先週の日経平均は、5MAを試しにいった後、一旦はニューヨーク市場に連れて戻ろうとする動きを経てリスクオフは進むという見通しでした。

それでは、先週のマーケットを振り返りつつ、今週の相場を考えてみましょう。先週の記事もぜひ参考にして下さい。

Bloomberg

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ニューヨーク市場

14 日:米政府がロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まったと警告したことで売り優勢の展開となりました。ウクライナの首都キエフにある米国大使館を閉鎖すると発表したことが警戒感を高めました。下げ幅は一時400ドルを超えましたが34,500ドル近辺では買い戻しの動きが見られました。ダウ平均株価終値は▲171.89の34,566.17ドル

15日:ウクライナ国境付近のロシア軍が撤収を始めたという報道で、やや緊張が緩和されたことを好感、幅広い銘柄が買われる展開でした。ダウ平均株価は前日までの3営業日で約1,200ドルほど下げており、その反動も大幅上昇に寄与しました。ダウ平均株価終値は△422.67の34,988.84ドル

16日:「16日にロシアがウクライナに侵攻する」と以前から報道があったこともあり、その警戒感から売り先行の展開でした。ロシア軍がクリミア半島から撤退する動きが見られたことで下げ幅を縮小。その後、FRB(米連邦準備理事会)が1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨を公開すると、金融引き締め加速を強く示唆する文言は見られず安心感が広がり買い戻しが進みました。ダウ平均株価終値は▲54.57の34,934.27ドル

17日:バイデン大統領が「ロシアによるウクライナへの侵攻が数日中に起こる」と発言したことでリスク回避の売り展開でした。景気敏感株、ハイテク株に関わらず幅広い銘柄が売られ、今年に入って最大の下げ幅となりました。ダウ平均株価終値は▲622.24の34,312.03ドル

18日:週明け21日のプレジデント・デーを控え、3連休となる週末のニューヨーク市場は、リスク回避のポジション調整が進みました。北京オリンピックの閉会を20日を迎えることで、ロシアが軍事行動を起こすのではないかとの観測も相場を押さえました。ブリンケン米国務長官がロシアのラブロフ外相と会談する予定と伝わり、下げ渋る場面も見られましたがダウ平均株価は3日続落です。ダウ平均株価終値は▲232.85の34,079.18ドル

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Bloomberg

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東京市場

14日:連休明けの東京市場は、2営業日で1000ドル超下落したニューヨーク市場を評価する下げの展開でした。12日に行われたバイデン大統領とプーチン大統領の電話会談も平行線に終わり、ウクライナ情勢の緊張が高まったことも売り材料となりました。日経平均株価終値は▲616.49の27,079.59ドル

15日:米国をはじめ各国がウクライナとその周辺国から自国民の退避を勧告するなど、ウクライナ情勢への警戒感はさらに高まりリスクオフが進みました。下げ幅は一時300円を超える場面もありましたが、26,700円近辺では買い戻し意欲も見られました。日経平均終値は▲212.40の26,865.19円

16日:前週末から1000円近く下げたことの自律反発に加え、ウクライナ国境付近からロシア軍が一部撤退を始めたとの報道で買い戻しが進みました。警戒感が和らいだことでの買いよりもショートカバーによる上昇が大きかったように見えます。緊張緩和で原油先物価格が下落しそれに伴う資源関連銘柄が下げた反面、半導体関連が上昇しました。日経平均株価終値は△595.21の27,460.40円

17日:ウクライナ情勢に対する報道に振り回される展開でした。前日600円近く上昇したことでの利益確定売りも相場を下押ししました。後場になって、ウクライナ軍が砲撃したとロシア国営放送が伝えると、外国為替市場で円高ドル安が進みリスク回避姿勢が強まりました。日経平均株価終値は▲227.53の27,232.87円

18日:前日のニューヨーク市場でダウ平均株価が620ドル超の下落をした流れの東京市場でした。幅広い銘柄が売られ下げ幅は一時400円を超える場面もありましたが、ブリンケン米国務長官がロシアのラブロフ外相と会談する見通しが伝わると、大きく戻す動きとなりました。▲110.80の27,122.07円

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ウクライナ情勢よりも本質的なリスクは金融引き締め加速とインフレ

ロシアによるウクライナ侵攻はあるのか?がマーケットの注目を集めています。米露を中心とした情報戦も熾烈を極めており、真偽不明のニュースに投資家は一喜一憂している状況です。個人的にはロシアによるウクライナ侵攻はあると予測しています。これだけの軍を配備したロシアが、大した利を得ずに兵を引く訳がありません。

もし、ここで引き下がれば、プーチン大統領の求心力は弱まり、軍事力を背景とした力の交渉が不可能になります。かと言って、欧米がロシアの要求を飲むこともできません。しかし、欧米が本気でウクライナの正面に立てば大規模な戦争に発展します。落とし所は、ウクライナにある程度の犠牲を強いて、互いに許容できる限界点を探すくらいでしょう。米国としても多少はウクライナを泣かせても全体の損失を最小限に抑えたいというのが本音だと思います。

ウクライナ問題は局地的な紛争として終わるだろうと考えています。ですから、マーケットにとっては喫緊ではあるが足元の、短期的な、それほど大きくないリスクと捉えています。それよりも、ウクライナ問題に隠れた本質的リスク=金融引き締めとインフレこそが最大のリスクであると考えます。現在のインフレを抑制するには相当大胆な利上げを要求されるでしょう。そうなれば欧米を出発点に世界的なリセッション入りすることは確実です。金融引き締めとそれに伴う景気後退が、ウクライナ情勢で影に隠れれば、米国にとってありがたいことではないでしょうか。

今週の相場見通し

今週も先週に引き続き、ウクライナ情勢がメインの展開が続きます。ウクライナ情勢が膠着している間に、FRBによる具体的な金融引き締め加速が意識されれば、それもマーケットに即反映されるでしょう。ウクライナの情勢について、緊張緩和が伝われば一時的に相場は上昇し、警戒感が高まればリスクオフで売られるという展開を予測します。

日経平均株価は、27,000円台をかろうじて保っている状況ですが、5MAが抵抗線となり、その上に27,350円の25MAが待ち構えています。現状で上昇する材料は無く、ウクライナという地政学的リスクが高まっています。今週は27,350円の25MAを意識しながら27,000円台の攻防となり、やがて26,500円を試す展開と予想します。いずれにしても、26,000円は近い将来下抜けると思います。

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編集後記

北京オリンピックでカーリング女子のロコ・ソラーレが銀メダルを獲得しました。決勝戦で英国に惜しくも敗れましたが、彼女たちが大会で見せてくれたものは結果以上のものでした。清々しい戦いを世界に見せつけてくれたロコ・ソラーレこそ、スポーツの最高峰オリンピックに相応しいチームであったと思います。

彼女たちの戦う姿は不思議な光景であっあかも知れません。メダルを取ることが唯一の目的である各国にとっては理解できなかったでしょう。ミスをしても笑顔で声を掛け合い、勝っても負けても礼節を忘れずゲームを楽しむ姿は、勝利至上主義・商業主義となった現在のオリンピックに一石を投じたのではないでしょうか。

屈強な欧米の選手と並んだ姿はまるで大人と子供のように見えました。そんな彼女たちがストーンを放つ瞬間に見せる真剣な眼差しは、それ以外の時に見せる表情と全く違い、そのコントラストにも魅了されました。彼女たちの戦いぶりを見ていて一番に感じたのは、対戦相手と競技に対する礼節です。勝って負けた相手を敬い、負けて礼節を忘れずといった振る舞いがとても美しいのです。それはまるで武士道を感じさせました。

スポーツも戦いであることに変わりありませんが、勝敗だけに拘っていては美しい競技にはなりません。仁や礼といった対戦相手への思いやり、美しい立ち居振る舞いが欠如していては見るものを魅了しません。オリンピックの舞台を目指して世界中のアスリートたちが血の滲むような練習に励みます。そしてそのアスリートたちのほんの一握りが選ばれ、戦いを繰り広げる舞台がオリンピックです。そこでアスリートに求められるのは、競技の勝敗だけではありません。競技に対する姿勢やオリンピアンらしい振る舞いも、世界中が見ているのです。オリンピックにドーピングや反則を持ち込むなど論外です。国を代表して恥を晒すことに他なりません。

ロコ・ソラーレはその清々しい戦いぶりと、誇り高い振る舞いで日本の素晴らしさを見せつけてくれました。彼女たちは、歴史に育まれた素晴らしい日本の精神文化を感じさせてくれたように思います。ありがとうございました。

猫組長TIMES 次号は2月23日です。

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